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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

はちみつ入りのコーヒー

またあ

 

 「はちみつはコーヒーに入れて飲むのがうまいんだ」。
 父の言葉に「うわっ」と思ったのは幼い私だった。はちみつと言えば、パンに塗って食べるもの、あるいは、パンケーキに載せて食べるものと思い込んでいたからだろう。父が「コーヒーに入れる」と言った時点でひいてしまった私だった。
 「美味しいんだって。お前も試してみたら」。
 父が進めるので思い切って飲んでみた。すると、意外に美味しい。
 「あれっ、美味しいかも」。
 「だろ。美味しいだろ。パパの言うことは間違っていなかったわけだ」。
 父はそう言ってどや顔で言った。コーヒーにはちみつを入れるという発想が私にはなかったのだが、それを壊してくれたのは父だった。
 その父はコーヒーを一日に何十杯と飲む人だったから、はちみつも減りが早かった。一本を買ってもすぐになくなってしまうと母が嘆いていた。私や母はパンで、父はコーヒーで使用するから、減りが早いのは当然だった。父が亡くなるまでそれは続いたらしい。
 父が亡くなったのは六年前。病気が見つかってわずか半年で旅立ってしまった。今でははちみつの減りは少なく、母も寂しそうだ。父が残してくれたものの一つは、はちみつを入れたコーヒーの美味しさだった。我が子にもこれは伝えていきたいと思っている。

 

(完)

 

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